「う〜ん、マンダム」が変えた日本の男たち――2026年、なぜ私たちは再びチャールズ・ブロンソンの“汗と美学”を求めてしまうのか
チャールズ ブロンソン マンダムという強烈な組み合わせを聞いて、反射的に顎を撫でたくなる衝動は、もはや日本人のDNAに刻み込まれていると言っても大袈裟ではない。泥臭く、無骨で、香水ではなく乾いた男の汗が似合うハリウッドのタフガイ。荒野のガンマンがグラスの水を頭から浴び、低音で呟いたあの一言は、半世紀以上の時を経た2026年の今もなお、日本の広告史・大衆文化史における金字塔として語り継がれている。
高度経済成長の熱気が充満していた1970年、日本の茶の間を揺るがしたのは、単なる男性化粧品の宣伝を超えた圧倒的な映像美だった。経営難に喘いでいた大阪の老舗メーカー・丹頂が社運を賭けて仕掛けた起死回生の一手、それこそがチャールズ ブロンソン マンダムという奇跡のコラボレーションであり、企業名そのものを変えさせてしまうほどの社会現象を巻き起こしたのだ。清潔感や中性的なルックが主流となった現代において、あの時代が放っていた圧倒的な“野生”が再び脚光を浴びている。
破滅寸前の老舗を救った「顎を撫でる男」の衝撃

1960年代末、ポマードの代名詞だった丹頂株式会社は深刻な経営危機に直面していた。若者の長髪化やスタイリングの欧米化の波に乗り遅れ、倉庫には売れ残りの在庫が山積み。そんな絶体絶命の窮地で、当時の経営陣が下した決断はあまりにも破天荒だった。海外の大物俳優を起用し、まったく新しい男性化粧品ブランド「マンダム」を立ち上げるという賭けだ。
当時、日本企業がハリウッドの一線級スターを単独CMに起用するのは極めて異例。莫大なギャランティを投じ、背水の陣で挑んだ撮影だった。だが、蓋を開けてみれば商品は爆発的ヒットを記録。店頭から商品が消え、注文の電話は鳴り止まず、倒産の危機を脱した会社は、1971年に社名そのものを「株式会社マンダム」へと変更することになる。一人の映画スターの存在が、企業の一大転換点を決定づけた瞬間だった。
若き日の巨匠・大林宣彦がフィルムに焼き付けた「映画美」

この歴史的コマーシャルを演出したのが、のちに『転校生』や『時をかける少女』で日本映画界に名を刻む若き日の大林宣彦監督だった。撮影はアメリカ・ユタ州の荒野やハリウッドのスタジオを敢行。大林監督が目指したのは、商品を説明する広告ではなく、1本の完結したショートフィルムとしての美意識だった。
馬を駆り、埃にまみれ、革ジャンのジッパーを下ろして化粧水を荒々しく首筋に叩き込む。ジェリー・ウォレスが歌う哀愁漂うテーマ曲『男の世界(Lovers of the World)』が流れる中、ブロンソンがカメラを見据えて顎を撫でる。わずか数十秒の映像に凝縮されたドラマツルギーは、当時のテレビコマーシャルの概念を根底から覆してしまった。
社会現象化した「う〜ん、マンダム」と男たちの模倣

CMが放映されるや否や、日本中でブロンソンの真似をする男たちが街に溢れかえった。学校の教室では男子生徒が競い合うように顎を擦り、居酒屋ではサラリーマンがジョッキを片手に「う〜ん」と声を低く響かせる。コントやバラエティ番組でも格好のパロディネタとなり、言葉は一人歩きして流行語の枠を飛び越えた。
それは単なるギャグの流行ではなかった。当時の日本人男性にとって、ブロンソンが見せた「寡黙でタフ、しかしどこか哀愁を帯びた佇まい」は、欧米への憧れと自身の男らしさを重ね合わせるための格好のアイコンだったのだ。
ハリウッドスター×日本CMの黄金ルートを開拓した功績
ブロンソンの大成功は、日本の広告業界に巨大な地殻変動をもたらした。彼が切り拓いた道に続くように、アーノルド・シュワルツェネッガー、トミー・リー・ジョーンズ、ハリソン・フォードといった大物たちが、次々と日本のCMに出演する時代が幕を開ける。
本国の映画では決して見せないコミカルな表情や、過剰なまでに様式美を強調した演出。ハリウッドスター側にとっても、日本市場での露出はギャラのみならず独自のファン層を獲得する貴重なプラットフォームとなった。そのすべての原点が、あの荒野で汗を拭ったブロンソンのワンシーンにある。
中性美が定着した2026年、なぜZ世代がこの“無骨さ”に痺れるのか
メンズコスメが完全に日常化し、ナチュラルメイクやスキンケアが当たり前となった2026年の日本。ジェンダーレスで透明感のあるスタイルがスタンダードとして定着した今、SNSでは一周回って昭和カルチャーやレトロマッチョの映像がバイラルを起こしている。
TikTokやInstagramのリールで突如拡散される当時のCMアーカイブ。「親父の世代、渋すぎる」「この不器用なカッコよさは何だ」――デジタルネイティブの若者たちにとって、過剰なまでの男臭さとフィルム特有の粒子感は、洗練されすぎた現代のビジュアルにはない“新鮮な刺激”として映っているのだ。
色褪せない美学――時代が巡っても男たちが憧れるもの
男らしさの定義は時代とともにアップデートされ、多様性の時代を迎えた。しかし、チャールズ・ブロンソンが体現した「自らの生き様に責任を持ち、飾らず、泥臭く立ち向かう姿」は、単なる記号的なマッチョイズムを超えた普遍的な人間的魅力を湛えている。
化粧水をただの身だしなみツールから、一日の戦いに向かうための“儀式”へと昇華させたマンダムの英断。鏡の前で顎に手を当て、少しだけ背筋を伸ばす。あの伝説の60秒が投げかけた男の美学は、令和の時代にも静かに、だが力強く息づいている。 (出典: チャールズ ブロンソン マンダム(Yahoo!ニュース))