マツダの生命線が魅せた意地――新型CX-5が投げかける「EV一辺倒への鮮烈なアンチテーゼ」
新型 cx 5がついにその全貌を現した瞬間、会場の空気がわずかに張り詰めた。2026年、自動車業界を取り巻く熱狂はどこか冷え込みを見せている。完全EVシフトの旗振り役たちが現実的なブレーキを踏むなか、マツダが世界市場へ放ったこの一台は、単なるフルモデルチェンジの枠を明らかに超えている。生き残りをかけた看板車種の刷新。そこには、流行を軽やかにかわしながら本質だけを研ぎ澄ませた、広島のエンジニアたちの狂気じみた情熱が宿っていた。
世界の自動車メーカーが巨大な液晶パネルと過剰な電脳ギミックで差別化を図る昨今において、この新型 cx 5が見せるアプローチはあまりに泥臭く、そして痛快だ。かつて初代が登場した2012年から数えて第3世代。販売台数の屋台骨を支える主力SUVが選んだのは、机上の空論ではなく「ドライバーの五感をどう心地よく刺激するか」という原点回帰だった。実際に目の当たりにしたそのプロポーションは、写真で見るよりもはるかに低く、大地を力強く捉えている。
トヨタ頼みではない「独自ハイブリッド」に宿る職人魂

ボンネットの下に収まるパワートレインこそ、今回の開発で最大の焦点だった。提携関係にあるトヨタのTHS(トヨタハイブリッドシステム)をそのまま載せるという安易な選択肢もあったはずだ。しかし彼らは、自社開発のストロングハイブリッドにこだわった。
アクセルを踏み込んだ瞬間のリニアな応答性。エンジンの咆哮とモーターのアシストが途切れなく調和し、速度計の針が小気味よく跳ね上がる。燃費性能の数値を誇示するためだけに加速感を犠牲にする退屈なハイブリッドとは、完全に一線を画す。あえて内燃機関の快感を残したセッティングには、マツダが頑なに守り続ける「人馬一体」への意地がにじみ出ていた。
「魂動デザイン」の到達点:加飾を削ぎ落とした引き算の美学

フロントマスクから無駄なキャラクターラインが消えた。メッキの加飾をギラつかせて威圧感を競い合う近年のデザイントレンドに対し、新型の造形は驚くほど潔い。
光の当たり方ひとつでボディの陰影がドラマチックに移ろう。曲面の抑揚だけでスピード感を表現する手法は、もはや工業製品というより彫刻作品に近い。切れ長のヘッドライトは薄く鋭くなり、ワイド感を強調したフェンダーがボディ全体を引き締め、SUV特有の腰高感を綺麗に打ち消している。都市の雑踏にも、深い森のワインディングロードにも自然と溶け込む佇まいだ。
あえてラージ群(後輪駆動)を選ばなかった英断の理由

先行して市場に投入されたCX-60やCX-80など、縦置き直6エンジンと後輪駆動プラットフォームを掲げた「ラージ商品群」は、一部で乗り心地の硬さや価格設定を巡って議論を呼んだ。それゆえ、次期CX-5の骨格がどうなるかはファンの間でも最大の関心事だった。
結論として、マツダは前輪駆動ベース(横置き)のプラットフォームを徹底的に磨き上げる道を選んだ。これが大正解だ。後席の足元スペースは先代より明らかに広がり、ラゲッジルームの実用性も格段に向上している。何より、高級志向に振り切って日常の扱いやすさを損なう愚を犯さなかった。ユーザーがCX-5という名前に求めている本質を、開発陣は冷徹なまでに見極めていたのだ。
画面の巨大化に抗うコクピットの哲学と静粛性の革新
ドアを開けて運転席に腰を下ろすと、視界の抜けの良さに驚かされる。ダッシュボードの中央には必要十分なサイズのディスプレイが鎮座するが、他社のように視界を遮る巨大な板切れではない。
エアコンの温度調整やオーディオの操作系には、カチリと心地よいクリック感を残した物理ダイヤルが配置されている。走行中にタッチパネルを探す危うさを排除し、ブラインド操作を可能にする配慮だ。走り出すと、ロードノイズや風切り音の遮断レベルが先代とは別次元に達していることがわかる。吸音材の配置だけでなく、車体フレームの結合部そのものを見直すことで、耳障りな周波数の振動を根こそぎ消し去っていた。
RAV4・ハリアー包囲網を打ち破る価格設定とリアルな市場価値
このセグメントには、トヨタのRAV4やハリアー、ホンダのZR-Vといった手強いライバルがひしめき合っている。インフレと原材料高が続くなかで、新型のプライスタグがどこまで跳ね上がるかは購入検討者にとって最大の懸念材料だった。
提示されたエントリー価格は、装備内容と走行性能の進化を考えれば驚くほど現実的なラインに踏みとどまっている。上級グレードではレザーシートの質感やオーディオシステムの完成度がプレミアムブランドの領域に肉薄しているにもかかわらず、手の届かない存在にはなっていない。過度なプレミアム化で既存のファンを置き去りにしなかった価格戦略には、マーケットに対する誠実さが窺える。
自動車ジャーナリストの眼:このクルマが日本のファミリーを救う
休日、家族を乗せて長距離を走り抜ける。ドライバーは山道でのハンドリングに思わず口元を緩め、同乗者は揺れの少ないキャビンでぐっすりと眠りに落ちる。そんな当たり前の幸せを、これほど高い完成度で両立させたファミリーSUVが他にあるだろうか。
デジタルガジェットとしての面白さを競うクルマが溢れる時代だからこそ、道具としての信頼感と、走る歓びをストレートに伝える存在が愛おしい。新型は、単なる移動手段に成り下がることを断固として拒否している。ハンドルを握るたび、クルマを操る楽しさを思い出させてくれる――これこそが、激動の時代においてマツダが世界へ届けた最高の贈り物だ。 (出典: 新型 cx 5(Yahoo!ニュース))