阿蘇越えのドライバーを唸らせる「伝説のから揚げ」と甘い奇跡──いま竹田のオアシスで起きていること
道 の 駅 すごうの駐車場に車を滑り込ませると、まず鼻腔をくすぐるのは香ばしい醤油とニンニクの匂いだ。阿蘇の外輪山から吹き降ろす澄んだ風が、揚げたての湯気を巻き上げている。大分県竹田市と熊本県阿蘇エリアを結ぶ国道57号線。この険しくも美しい高原ルートを走るドライバーにとって、ここは単なる休憩所ではない。胃袋を満たし、疲れた神経を解きほぐすための、なくてはならないチェックポイントなのだ。
平日の午前中から地元ナンバーと県外ナンバーが入り乱れる光景は、もはや日常の一部になった。旅慣れたドライバーたちが迷わず目指す道 の 駅 すごうは、直売所の枠組みを軽々と超え、九州のドライブカルチャーを牽引する特異なエネルギーを放っている。なぜこれほどまでに人を引きつけるのか。その答えを探るべく、活気あふれるフロアへ足を踏み入れた。
国道57号線、阿蘇と竹田を繋ぐ「食の防衛線」

大分・熊本をつなぐ大動脈である国道57号線は、中九州横断道路の整備が進む2026年の現在も、旅の情緒を色濃く残す特別な道だ。標高約400メートル、雄大な久住連山を背負う菅生(すごう)地区は、かつて火山の灰が降り積もった肥沃な大地。ここで育つ農産物はどれも味が濃い。
移動の効率化ばかりが叫ばれる昨今、目的地へ急ぐ高速移動の途中でわざわざ一般道へ降り立ち、ハンドルを切る価値がこの場所にはある。ハンドルを握る手の強張りが、この空気感に触れた途端にふっと緩む。
肉汁とニンニクの洗礼──丸福の「本気からあげ」が人を狂わせる

館内のレストランスペースから漂う匂いの主は、竹田市民のソウルフード「竹田丸福」だ。黄金色にカラリと揚がった骨付きモモ肉に歯を立てると、驚くほど軽やかな衣の奥から熱々の肉汁が溢れ出す。ニンニクと秘伝のタレが効いたその味は、シンプルでありながら暴力的なまでに旨い。
「このから揚げを食べるために福岡から下道で来た」と笑うバイカーの姿があった。鶏の天ぷら、とり天も侮れない。酢醤油と練り辛子をつけて頬張れば、ふわりとした衣とジューシーな肉質が絶妙なバランスで溶け合う。計算され尽くした揚げ時間と油の温度。長年受け継がれてきた職人技が、ドライブインの定食という枠を完全に凌駕している。
糖度18度超えの衝撃、高原が生んだ「飲むスイートコーン」の狂騒

菅生を語る上で絶対に外せないのが、全国屈指の糖度を誇る「すごうスイートコーン」だ。昼夜の激しい寒暖差と高原特有の冷涼な気候が、トウモロコシに信じられないほどの甘みを蓄えさせる。生でかじれば果物以上の果汁が弾け、メロンに匹敵する糖度18度超を記録することも珍しくない。
シーズン中の熱狂は凄まじい。早朝から収穫された新鮮なトウモロコシを求めて直売所前には長蛇の列ができる。さらに物販コーナーで販売されているオリジナルコーンスープや、コーンを贅沢に練り込んだソフトクリームは、年間を通じて訪れる観光客の定番だ。一口舐めると、濃厚なミルクのコクの後に、あの香ばしいトウモロコシの自然な甘みが追いかけてくる。
朝採れ野菜の争奪戦と、売り場に潜むローカル遺産
物産館の扉をくぐると、そこは地元生産者の誇りがぶつかり合う戦場だ。泥のついた採れたてのネギ、鮮烈な赤を放つ高原トマト、肉厚な原木しいたけ。どれもスーパーに並ぶ均一な野菜とは明らかに異なる力強さを放っている。プライスカードに書かれた農家の名前に、買い物客は自然と目を留める。
竹田特産のカボスを使った調味料や、地元のばあちゃんたちが早朝から仕込んだ手作りの団子汁の具材、素朴な米菓子。大量生産品では決して味わえない、地域の生活と風土がそのままパック詰めされたような品々が並ぶ。ここにあるのは商業的なお土産ではない。菅生という土地の生活そのものだ。
2026年のドライブツーリズムと「あえて立ち寄る」理由
モビリティの自動化やEVシフトが当たり前となった2026年、ドライブという行為そのものの意味が変わりつつある。目的地へ最速で到達することよりも、道中でどんな「生の体験」に出逢えるか。旅人たちの関心は、より濃密なローカル体験へと回帰している。
急速充電スポットで愛車をチャージする間に、焼きたての丸福から揚げをテイクアウトし、直売所でその日の夕飯の食材を吟味する。そうしたシームレスで温もりのある時間の過ごし方が、現代のツーリストたちにとって最高の贅沢として再認識されているのだ。
立ち込める湯気と人の気配──夕暮れの菅生が放つ旅愁
陽が傾き、阿蘇のシルエットが茜色に染まる頃、敷地内にはどこか懐かしい静けさが漂い始める。トラックのアイドリング音、バイカーたちの談笑、厨房から聞こえる油の爆ぜる音。それらすべてが混ざり合い、旅の記憶として心に刻まれていく。
ただ通り過ぎるにはあまりにも惜しい場所。車に乗り込み再び国道57号線へ合流するとき、バックミラーに映る建物の灯りを見つめながら、誰もが「また寄ろう」と心の中で呟いているに違いない。 (出典: 道 の 駅 すごう(Yahoo!ニュース))